TinkerDigger’s blog

誰かも同じことを考えているに違いない日常。

屋根

 もう七年前の話になる。
 先日の台風以来、ハナレのトタン屋根がバタバタと音をたてはじめた。
 不動産屋に連絡しても音沙汰なし。
 隣に住む石工のKさんが道具を貸してくれるというので、脚立を使って、おっかなびっくり塀をつたい、屋根の具合を観察してみる。
 トタンはひどくゆがんでいるが、応急処置ならなんとかなるだろう。ありあわせの釘をもらい、ゲンノウとペンチを借りて、トタンのゆがみを直しながら、打ち付けていく。築六十年であるから、トタンの下の木材が所々、スカスカに風化している。
 初めて、母屋の瓦屋根も眺めてみた。あそこに寝ころんだら気持ちよさそうだ。他界してしまった飼い猫と瓦屋根の上で日向ぼっこしてみたかったな。などと目下のトタン屋根にしがみつき、釘を口にくわえながらもごもご独り言を言っている。
 南側に建つお宅の二階のベランダから、初老男性の隣人が歯を磨きながら「大変だねぇ」などと声をかけてくれる。平屋の我が家でやっていることは、周囲の二階からは丸見えである。完璧な防犯体制なのがありがたい。
 雨が降ってきた。
 あっという間に、干からびていたトタンに、ぽつぽつと雨水の斑点が増殖したかとおもうと、斑点はひとつの大陸模様に、いや大海原になって、流れ出した。